ペルソナやジャーニーマップって、正直言うと「手がかかるわりに効果的じゃない」と感じることが多い。もちろんUXデザインでは重要な工程だし意味はあると思ってるんだけど、あまり時間をかけすぎるのもよくないなと。
なぜなら、結果的に機能一覧とかワイヤーフレームに落とし込んだときに、ありきたりな機能やコンテンツに着地したり、よくある設計のワイヤーになったりすることが多いからだ。つまり、ペルソナやジャーニーから導かれた新しいユーザーの課題やニーズが見つからず、そこからこれまでにない切り口のコンテンツや機能を生み出すのが難しい。
でも無駄な作業とは考えていない。どうしても達成感が少ないというか効率が悪く感じるシーンがあるだけだ。
今回、ある案件の新規サービス立ち上げで、久々にペルソナとジャーニーマップに取り組んでいて、これまでの知見をふまえて、より洗練化されたフレームワークで作業を進めているところだ。
よくある「ペルソナ・ジャーニーマップあるある」
まず、従来のアプローチでよくある問題を整理してみると、大体こんな感じになるかな。
- 作ること自体が目的化してしまう
- 詳細で美しい資料を作成することに時間を費やす
- 詳しすぎて、現場で参照されない・覚えられない
- 結果的に競合と似たような機能一覧やワイヤーフレームになる
- ユーザーの新たな課題やニーズが発見できない
- メンバーによって理解や記憶している内容がまちまち
- 共有の場で盛り上がらない、ピンとこない反応が多い
- 「当たり前のことしか書いてない」という感想で終わる
本質的な問題は「完璧なペルソナを作ること」や「できるだけ具体的なジャーニーマップ」に重点を置いたり固執しすぎることだ。真に重要なのは「チームが継続的に活用できる共通認識ツールを作ること」だと思う。ここを間違えると迷路に迷い込んだ挙げ句に凄まじい徒労感に襲われるので注意したい。
ペルソナ設計:詳細化の罠から脱却する試み
従来のペルソナ設計でよくあるのが、年収、居住地、家族構成、趣味など、詳細な設定を作り込んで「リアルなペルソナ」を目指すことだ。でもこれは以下の問題を引き起こす。
- 情報量が多すぎて、チームメンバーが覚えられない
- ゴールに対して直接関係のない情報が混在
- 本来重要な「サービス利用可能額」「課金上限」より、推測が必要な年収情報の方が詳しいという本末転倒
- 共有の場で「細かすぎてよく分からない」という反応になる
今回採用したのは、以下の3要素に絞った実用的なペルソナ設計だ。
- 【課題】サービス・施策を使って、ユーザーが解決したい課題は何か
- 【意思決定の軸】ユーザーはどんな要素があれば意思決定できるのか
- 【理想の姿】ユーザーはどんな理想の姿を目指しているのか
ただし、サービス設計に直結する情報として、以下の項目も追加している。
- 名前:チーム内で呼びやすい具体的な名前。年齢も
- 主な利用デバイス:UI設計に直結する重要情報
- 情報収集時間:コンテンツ配信タイミングの最適化
- 好む情報形式:コンテンツ制作の方向性
具体的なペルソナ案
学習・実践層は「村上さん(30歳女性)」として設定している。スマートフォン中心で、通勤時間、昼休み、就寝前の短時間に情報収集する。短時間で理解できる情報(ガイド、図解、動画、要点まとめ)を好むが、信頼できる情報源であれば腰を据えた学習も厭わない。
専門特化層は「斎藤さん(50歳男性)」として設定している。日中はスマートフォン、夜はPCを使い分け、朝の開始前と夜の分析時間に情報収集する。手軽にチェックできる音声・動画と詳細レポート、データ表、分析資料を好む。
チームからの貴重なフィードバック
ペルソナについては、チーム(その分野のプロ)からフィードバックをもらって、かなり価値のある洞察を得ることができた。想像と理論だけでは見えない現実的な視点なので、とても助かった。
学習・実践層の本音として「ラクして成果を得たい」という切実で究極に怠惰な悩みがあることや、「何を言うか」より「誰が言うか」を重視する情報選択をしていることが分かった。
また、専門層の現実として、完全な上級者ではなく「上級者になりたくて、なりきれない」万年初中級者が多いことや、短期志向で具体的なスキルを手っ取り早く身につけたい欲求があることも見えてきた。
これらの洞察は、従来のペルソナ手法では発見しにくい「新しい切り口」を提供してくれそうだ。
ジャーニーマップ:サブスクモデルの特性を活かした設計
一般的な5ステップではなく、フリーミアムモデルの特性を反映した6ステップで考えている。
認知 → 調査・検討 → 無料登録 → 有料検討 → 有料契約 → 継続
各ステップについて、以下の5項目で詳細に設計する予定だ。
- ステップの定義:そのステップでユーザーが何をしているか
- タッチポイント:ユーザーがサービスと接触する場所・方法
- ユーザー行動:具体的にどんな行動を取っているか
- 課題:そのステップでユーザーが感じている問題
- ユーザー心理:その時のユーザーの感情や考え
例えば、有料検討段階では以下のような設計を考えている。
- ステップの定義:無料会員体験を通じて「月額課金してでも継続的に学ぶ価値があるか」を判断
- タッチポイント:有料プラン紹介ページ、料金・機能比較表、有料限定コンテンツのプレビュー、利用者の体験談・レビュー、無料お試し期間の案内など
- ユーザー行動:有料プランの詳細を確認、無料コンテンツと有料コンテンツの違いを比較、料金と提供価値を慎重に検討、口コミやレビューを検索
- 課題:無料と有料の差が明確に分からない、月額費用に見合う価値があるか不安、途中で使わなくなるかもしれない心配
- ユーザー心理:「無料でもかなり学べるけど、有料だともっと深い内容があるのかな」「月3,000円は安くないけど、成果を出せれば元は取れるかな」
この詳細化により、「このステップのユーザーはこういう気持ちなんだな」と具体的にイメージしながら、コンテンツ企画や機能設計の議論ができるようになるはずだ。本当はもう少し簡潔にしてもいいと思ってるけど、ひとまずはこのレベルで叩いてみたいなと。
これからの挑戦:共有と活用が本当の勝負
ペルソナについては、チームからの追加フィードバックをもらって最終調整する予定だ。ジャーニーマップについては、これから詳細を共有してチーム内で議論していく段階だ。
ただし、共有の仕方が重要だと思っている。単に資料を見せるだけじゃなく、「これを使って具体的にどんなコンテンツを作るか」「どの機能を優先するか」といった実用的な議論につなげないと、結局「作って終わり」になってしまう。ジャーニーマップあるあるだ。
今回のアプローチは、従来の「完璧で詳細なドキュメントを作成 → 作成後はあまり参照されない」という流れから、「要点を絞った実用的なフレームワーク → 継続的にチームで活用」という流れに変えることだ。これが想定通りにいくかは正直分からないけど、ここからが正念場だな。
今日の気づき
ペルソナやジャーニーマップは、決して無駄な作業ではない。重要なのは「どう作るか」ではなく「どう活用するか」だ。UX設計手法は「作成技術」から「活用技術」へと進化する必要がある。美しいドキュメントより、チームが継続的に活用できるフレームワークこそが価値だと思う。
久々に取り組むペルソナとジャーニーマップだけど、本当の勝負はこれからの共有と活用の部分だな。